提供を願っていました。この時期、ターミナルケア研究会等の活動が多くあり、院内外の集まりに参加していました。私自身の探求の方向は、終末期ケア・ターミナルケアになってまいりました。03家族看護への広がり その後、縁あって看護系大学の教員になりました。成人看護学で主に急性期領域の実習指導を担当しました。がんの病名の説明が患者本人になされるようになってきたのはこの頃です。病名を告げられて、そのことをどう受け止め、対応したのかということを、実習病棟の患者さんやご家族に聞いていくことを始めました。 ご家族の話を聞いて感じたのは、がん罹患は患者さん本人だけでなく、ともに暮らす人にも大きな影響があることです。でも、医療者は家族の思いや家族の暮らしにはあまり関心を寄せておらず、患者の背景として捉えることが多いということもわかりました。そこから、家族に焦点をあてた研究を考えるようになりました。家族×終末期ケア=訪問看護 大学院博士課程に進学後、ホスピスと在宅診療を実践している有床診療所で、パートの訪問看護師をしながら、研究計画を練っておりました。そこはがん専門病院の医師が開いた診療所で、利用者の多くはがん患者で、近隣の病院で初期治療をしたのち、再発転移で治療をしても完治が難しいとされた方々です。そして、「治らないのなら、家に帰ります」ということで在宅医療を受けることになっていました。ご自宅に私たち訪問看護師が行く頃は、患者さんの状態は厳しく、長く自宅での生活を楽しめることが難しい方がほとんどでした。この時期は、患者さんよりもご家族とお話しすることが多くなってきます。当初は家に医師や看護師が来ることに患者さん共々戸惑っていましたが、自宅での看取りを引き受ける決心をした家族は、どんどん変わっていき、家族の死に向き合うとはこうゆうことなのかと思い知ることが度々ありました。 博士論文の研究テーマは「終末期がん患者の家族の移行−家族の移行のプロセスと看護介入−」とし、愛する者を亡くすという大きな変化の時期を“移行”、すなわちTransitionトランジションとして捉え、家族がどのような移行を体験しているかについて、解釈学を理論的拠りどころとした方法を用いて質的に分析しました。研究では、病院から戻ってきた時期から看護師として訪問し、看取りや告別式、死別後2〜3か月までの患者や家族とのかかわり、そこで得られた語りを基に分析し、論文にまとめました。そして、博士論文の研究でのご家族・ご遺族とのかかわりが、在宅ケアや訪問看護への関心に繋がりました。生き生きと仕事する訪問看護師 博士課程を修了したのち、訪問看護ステーションでの仕事をつづけましたが、また、教育の方へと戻ることになり、継続看護教育、看護師の現任教育を担当しました。その現任教育の事業の一つに、プロジェクトとして取り組む研究テーマを提示して、学外の看護大学の研究者に参加を募る「共同研究」というものがありました。そこで、訪問看護師の継続教育をテーマとして掲げたところ、訪問看護のご経験のある先生方が手を挙げてくださいました。大学からは研究会参加のための1回分の旅費しか出ませんでしたが、同じ志を持った先生方との交流は、自費で頻回に行われるようになりました。そして、ユニベール財団からの助成金を頂き、各県の訪問看護ステーション連絡協議会等、訪問看護事業所の団体に訪問看護師養成講習会受講や学習ニーズ、学習支援の状況などを調査し、「訪問看護師の専門的教育に関する研究」としてまとめました。この研究では、訪問看護師は質の高い看護提供を目指して、新たな知識や技術、そして社会制度に関する学習のニーズが示されました。しかし、小規模の事業所が多い訪問看護ステーションでは、学習の機会が少ないということもわかりました。研究に取り組んだ私たちは、「訪問看護師さんに生き生きと仕事をしてほしい」「自ら学んでいけるように私たちが助けることはできる!」と考えるようになり、「在宅看護教育研究会」として自主的に集まり活動を続けました。訪問看護OJTガイドブック 私たちは訪問看護師が日常の看護実践の中から学びを深めていくことができないかと考えました。経験からの学習、On the Job Trainingをどのように訪問看護師現任教育に活かせるか、文献検討や教育専門家からアドバイスを受けたりして、検討を進めました。 そして、必要な能力、コンピテンシーを実践内容ごとに提示し、それに沿った学習目標、具体的方法をマトリックス配置したシートを、習熟レベルごとに作成しました。このシートの内容は、関連する訪問看護ステーションの方々に試行、評価してもらい、さらに精錬していきました。 この取り組みの成果は「訪問看護OJTガイドブック」として日本訪問看護財団から出版されました。折しも、診療報酬の改定で、看護師等への教育体制をとっている訪問看護事業所には体制加算がつくようになり、その教育体制整備にはこのガイドブックのような学習支援のツールの活用が含まれ、多くのステーションで利用されるようになりました。 看護教育研究会の活動も15年を過ぎ、多くメンバーの所属が変わっており、昨今の感染予防対策で集まれなくなったりしていますが、「生き生きと働く訪問看護師」の応援隊として、教育研究を続けていきたいと思っております。
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