ECOP② 第3者による評価リハビリテーションを受ける対象者療法士による代理人評価対象者による自己評価対象者と代理人の一致度ご紹介いたします。 早速、臨床でのQOL研究を始めようと思ったのですが、文献レビューをする中で、いくつかの課題があることが分かりました。1つ目は、特に国内において、リハビリテーションのアウトカムとしての報告が非常に少ないため、QOL尺度の特性が分からないことです。つまり、どの尺度をどの疾患の対象者に使用したら良いのかが分からないということです。2つ目は、ADLなどは客観的な評価ですので、第3者による評価が可能ですが、QOL評価は、患者報告アウトカム(PRO: Patient Reported Outcome)が基本になります。そのため、高次脳機能障害や認知症などにより、本人による回答が困難な場合には評価することができません。まずは、この2点についてPECO(P: Patients、 E: Exposure、 C: Comparison、 O: Outcomes)で考えてみました(表)。表 : 研究疑問の構造化(PECOを用いて)① QOL尺度の使用リハビリテーションを受ける対象者QOL尺度の評価ADL尺度などの評価QOLとADLなどの関係性 その結果、①については、リハビリテーション前後でQOL、ADLともに向上しますが、ADLは満点であっても、QOLが満点であることは少ないことが分かりました(図)。図 : QOLとADLの関係縦軸はADL得点、横軸はQOL値です。2つの間に関係はあるのですが(ADLが向上するとQOLも向上する)、〇で囲んだ箇所で、ADLが満点でもQOLは満点に及ばない対象者が多いことが分かります。 つまり、ADL尺度には天井効果があるということです。しかし、現在のリハビリテーションにおけるメインアウトカムはADL尺度であり、ADLが満点になった後のリハビリテーションによる効果が表しにくい現状になっています。②については、対象者本人が回答したQOL評価と療法士が代理人として回答したQOL評価は一致度が高いことが分かりました。つまり、対象者本人による回答が困難な場合には療法士による代理人回答が参考になるということです。国外では、この代理人評価による検討がされていましたが、療法士以外の医療職では対象者よりも高いQOL値となり、家族などでは対象者よりも低いQOL値を示すことが報告されていました。国外との違いの理由としては、日本における医療制度上では、療法士と対象者は、毎日、マンツーマンで、比較的長い時間接していることであると考えました。05研究の仲間 上記のQOL研究が、修士課程で行った現在の基礎となるものになります。その後も、早や15年、QOL研究一筋で邁進しております。私の研究を進めていくにあたり、忘れてはいけないことがあります。協力していただける対象者の方への感謝はもちろんのことですが、私の研究は臨床データを用いる研究であり、更には、分析には多くのデータが必要となるため、ともに研究を実施していただける仲間が必須となります。幸運なことに、学会発表、臨床での学生指導、協会活動などで他施設の方たちと接する機会が多くありましたので、その方たちにご支援をいただき、私の研究が成り立っております。現在、国内各地からいただいたデータで研究をさせていただいております。 聖隷関連施設・卒業生・大学院生との研究 私のテーマであるQOL研究の1番の利点は、分野を問わないことだと思います。私自身のリハビリテーションの専門分野は、作業療法の中の身体領域になりますが、QOLは身体領域、精神領域、高齢期領域、発達領域、地域(就労含む)のどの領域でも、急性期、回復期、生活期(維持期)のどの時期でも重要になります。もちろん、どの保健医療福祉職にも関係があり、一般の方々にとっても関心のある内容だと思います。 そのため、様々な分野の方と研究をさせていただいており、広く関わらせていただくことにより、自分自身も勉強しますし、皆様から教えていただくことがとても多く、充実した研究生活を送らせていただいております。 現在は浜松市リハビリテーション病院と回復期、聖隷袋井市民病院とは生活期、訪問における共同研究を実施しており、卒業生にもメンバーに入ってもらっています。大学院については、卒業生も在籍しており、身体領域の研究に留まらず、様々な内容について討論をしながら進めています。 最後に、私は幸いにも環境に恵まれ、研究を続けることが出来ていますが、1つ努力していることは、「常に心を燃やし、研究し続ける!」ことです。それは、後輩を育成する大学教員という立場ですので、研究に対する「廃用症候群(disuse syndrome)」を生じさせないためです。今後も、皆様に巻き込んでいただき、研究を続けていけることを願っております。
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