がん看護実践に根差した疑問を紐解き解決する研究を仲間と共に
2022年4月28日更新
看護師時代 研究する意味を知る
私の主な看護実践の場所は、中央手術室、ICU、外科病棟でした。その中で現在の研究テーマであるがん看護は、外科病棟看護師時代に関わらせていただいたがん患者の方々への看護実践に根差したものとなります。治療を乗り越え退院される方が大勢いる一方、がんになったことに起因して起こるつらい体験に苦しむ方もいらっしゃいました。その中で自殺企図を2件経験しました。お一人は明日に手術を控えた方、もうお一人は手術が終わり回復期にある方でした。自殺を考えるほどのつらい体験をされているのにどうして気づけなかったのか、何を見落としたのか、どうすればがん患者さんが体験している苦痛を早期に発見し、早期に対応できるのかずっと考え続けていました。この自身の看護実践の中で生じた疑問を解決するためには、今以上に知識が必要だと考えました。それからは、文献をひたすら探し読み、学会や研修に行き、その疑問を解決する知識と具体的な方法を探すことに明け暮れていました。
ひたすら知識と方法を探し求める中で、「さまざまな臨床疑問を探究するために、実際に研究してみよう」という趣旨を掲げた研究会に出会いました。そこは小さな研究会でしたが、各地の病院から看護実践に関するいろいろな疑問をもった看護師が集まり、毎回熱い討議が繰り広げられていました。研究会に出席するたびに視野が広がり、何かやってみようという刺激を受けたことを今でも鮮明に思い出します。この研究会で知り合った方々とは、研究領域は異なっていますが、その頃の熱い想いを持ち続けながら今でもよい研究仲間としてつながっています。実はこの研究会を知る前までの私は、「研究」が実践に役立っている実感がありませんでした。ですので、大学院で研究することを勧めていただく機会もあったのですが、この頃は興味がありませんでした。
しかし、この研究会に参加することで「研究」とは何なのかやっとはっきりみえてきました。つまり、日々自分たちが使っているガイドラインやエビデンスは、長い期間をかけて「研究」という緻密な作業が積み重ねられ、利用されていることにようやく気づいたのです。この頃ちょうど、がん看護専門看護師(以下、がん看護CNS)を目指そうか悩んでいるときでしたが、縁あって教育への道を選ぶことにしました。
がん看護の研究へ
臨床看護師時代にもった疑問に対する答えを見つけ出すために,右往左往しながらもがいていた時期が過ぎ、あらためて自分が何を目指して研究していくのか考える時期となっていました。程なくして、臨床看護師時代からくすぶっていた「がん患者さんが体験するつらい思いを、どうすれば早期発見し早期対応できるのか」という問いについて明らかにしていこうという思いが強くなってきました。
タイミングよく「精神腫瘍学」という学問領域があるのを知り、さらに学修を深め研究論文や文献を読み、学会参加するようになりました。その中で、がん患者に合併する精神症状には、抑うつ状態を主要症状とするうつ病、適応障害があり、その有病率は低くないこと、抑うつ状態の特徴である気力減退などから自ら症状を訴えられないこともある、ということが見えてきました。
これらの現状を踏まえ、看護師ががん患者の抑うつ状態をモニタリングし、早期に専門医やがん看護CNSへコーディネートし、抑うつ状態の重症度に応じた対応ができるような研究をしようという思いにたどり着きました。この臨床看護師時代にもった疑問を解決するためにどのように研究すればいいのかが見えたとき、博士後期課程へ進学しました。そこですばらしい指導教官に出会うことができ「がん患者の抑うつを早期発見するためのアセスメントツール」を開発するに至りました。
開発までの流れとしては、まずアセスメントツールの項目の妥当性の検討を修正デルファイ法で行い、パイロットスタディとして妥当性の得られたアセスメントツールを2名の看護師間で評定者間一致率を求めました。さらに、本調査で項目選定分析、構成概念妥当性、基準関連妥当性、信頼性の検討を経て開発しました。
研究を進め、複数の都道府県がん診療連携拠点病院などでデータを得ていく中で,多くのがん患者さんと再びかかわるチャンスをいただきました。その中で何人もの方から「ぜひとも、自分たちのつらさをキャッチできるものを完成してください、そしてそのようなことができる看護職をたくさん育ててください」とエールをいただきました。その方々の言葉と思いは決して忘れることのできないものです。
現在、研究助成金を得て、開発したアセスメントツールを用い、看護学生ががん患者さんの心理的側面を意図的・系統的に観察できる教材とその教育方法・評価方法の開発に取り組んでいます。私の今後の課題は、開発したアセスメントツールをさらに精緻化し、臨床適用できるようにすること、また、がん患者さんの心理的側面を意図的・系統的に観察できる教育方法を確立する研究を進めていくことだと考えています。
がん看護を研究する頼もしい仲間との出会い
聖隷クリストファー大学へ着任し、がん看護の研究を進める仲間が増えました。本学看護学研究科がん看護学領域の先生方はじめ、本学を修了しがん看護CNSとして第一線で活躍されている方々、実習病院の看護師の方々、そして大学院生の皆さんです。現在、本学看護学研究科を修了してがん看護CNSとして活躍されている方々と共同で研究することを進めています。
研究を共に進めるにあたりがん看護CNSの方々の豊富な経験知と視野の広さは本当に頼れる存在です。実践知豊かな皆さまからの忌憚ないご意見や、時に鋭いご指摘は、実践の科学である看護の研究をよりブラッシュアップしてくれます。
博士前期課程・後期課程の大学院生の方々からは、看護実践に根差した研究疑問が豊富に出てきます。入院期間の短縮、外来での治療が主流になっている今日、私の臨床看護師時代とは全く異なった、そして新たな視点での研究疑問について、ディスカッションしたり、共に悩んだりして研究を進めています。
また研究成果を学会発表する準備を共にしている中で、大学院生がいろいろなアイデアを積極的に出してくださるのをみていると、今後のがん看護研究を進めていく若い研究者を頼もしく思ったりします。
多くの頼れる仲間と共に、今後も実践に根差した疑問を紐解き、解決するための研究をワクワクしながら続けていくことができるよう頑張っていきたいと思います!
私の主な看護実践の場所は、中央手術室、ICU、外科病棟でした。その中で現在の研究テーマであるがん看護は、外科病棟看護師時代に関わらせていただいたがん患者の方々への看護実践に根差したものとなります。治療を乗り越え退院される方が大勢いる一方、がんになったことに起因して起こるつらい体験に苦しむ方もいらっしゃいました。その中で自殺企図を2件経験しました。お一人は明日に手術を控えた方、もうお一人は手術が終わり回復期にある方でした。自殺を考えるほどのつらい体験をされているのにどうして気づけなかったのか、何を見落としたのか、どうすればがん患者さんが体験している苦痛を早期に発見し、早期に対応できるのかずっと考え続けていました。この自身の看護実践の中で生じた疑問を解決するためには、今以上に知識が必要だと考えました。それからは、文献をひたすら探し読み、学会や研修に行き、その疑問を解決する知識と具体的な方法を探すことに明け暮れていました。
ひたすら知識と方法を探し求める中で、「さまざまな臨床疑問を探究するために、実際に研究してみよう」という趣旨を掲げた研究会に出会いました。そこは小さな研究会でしたが、各地の病院から看護実践に関するいろいろな疑問をもった看護師が集まり、毎回熱い討議が繰り広げられていました。研究会に出席するたびに視野が広がり、何かやってみようという刺激を受けたことを今でも鮮明に思い出します。この研究会で知り合った方々とは、研究領域は異なっていますが、その頃の熱い想いを持ち続けながら今でもよい研究仲間としてつながっています。実はこの研究会を知る前までの私は、「研究」が実践に役立っている実感がありませんでした。ですので、大学院で研究することを勧めていただく機会もあったのですが、この頃は興味がありませんでした。
しかし、この研究会に参加することで「研究」とは何なのかやっとはっきりみえてきました。つまり、日々自分たちが使っているガイドラインやエビデンスは、長い期間をかけて「研究」という緻密な作業が積み重ねられ、利用されていることにようやく気づいたのです。この頃ちょうど、がん看護専門看護師(以下、がん看護CNS)を目指そうか悩んでいるときでしたが、縁あって教育への道を選ぶことにしました。
がん看護の研究へ
臨床看護師時代にもった疑問に対する答えを見つけ出すために,右往左往しながらもがいていた時期が過ぎ、あらためて自分が何を目指して研究していくのか考える時期となっていました。程なくして、臨床看護師時代からくすぶっていた「がん患者さんが体験するつらい思いを、どうすれば早期発見し早期対応できるのか」という問いについて明らかにしていこうという思いが強くなってきました。
タイミングよく「精神腫瘍学」という学問領域があるのを知り、さらに学修を深め研究論文や文献を読み、学会参加するようになりました。その中で、がん患者に合併する精神症状には、抑うつ状態を主要症状とするうつ病、適応障害があり、その有病率は低くないこと、抑うつ状態の特徴である気力減退などから自ら症状を訴えられないこともある、ということが見えてきました。
これらの現状を踏まえ、看護師ががん患者の抑うつ状態をモニタリングし、早期に専門医やがん看護CNSへコーディネートし、抑うつ状態の重症度に応じた対応ができるような研究をしようという思いにたどり着きました。この臨床看護師時代にもった疑問を解決するためにどのように研究すればいいのかが見えたとき、博士後期課程へ進学しました。そこですばらしい指導教官に出会うことができ「がん患者の抑うつを早期発見するためのアセスメントツール」を開発するに至りました。
開発までの流れとしては、まずアセスメントツールの項目の妥当性の検討を修正デルファイ法で行い、パイロットスタディとして妥当性の得られたアセスメントツールを2名の看護師間で評定者間一致率を求めました。さらに、本調査で項目選定分析、構成概念妥当性、基準関連妥当性、信頼性の検討を経て開発しました。
研究を進め、複数の都道府県がん診療連携拠点病院などでデータを得ていく中で,多くのがん患者さんと再びかかわるチャンスをいただきました。その中で何人もの方から「ぜひとも、自分たちのつらさをキャッチできるものを完成してください、そしてそのようなことができる看護職をたくさん育ててください」とエールをいただきました。その方々の言葉と思いは決して忘れることのできないものです。
現在、研究助成金を得て、開発したアセスメントツールを用い、看護学生ががん患者さんの心理的側面を意図的・系統的に観察できる教材とその教育方法・評価方法の開発に取り組んでいます。私の今後の課題は、開発したアセスメントツールをさらに精緻化し、臨床適用できるようにすること、また、がん患者さんの心理的側面を意図的・系統的に観察できる教育方法を確立する研究を進めていくことだと考えています。
がん看護を研究する頼もしい仲間との出会い
聖隷クリストファー大学へ着任し、がん看護の研究を進める仲間が増えました。本学看護学研究科がん看護学領域の先生方はじめ、本学を修了しがん看護CNSとして第一線で活躍されている方々、実習病院の看護師の方々、そして大学院生の皆さんです。現在、本学看護学研究科を修了してがん看護CNSとして活躍されている方々と共同で研究することを進めています。
研究を共に進めるにあたりがん看護CNSの方々の豊富な経験知と視野の広さは本当に頼れる存在です。実践知豊かな皆さまからの忌憚ないご意見や、時に鋭いご指摘は、実践の科学である看護の研究をよりブラッシュアップしてくれます。
博士前期課程・後期課程の大学院生の方々からは、看護実践に根差した研究疑問が豊富に出てきます。入院期間の短縮、外来での治療が主流になっている今日、私の臨床看護師時代とは全く異なった、そして新たな視点での研究疑問について、ディスカッションしたり、共に悩んだりして研究を進めています。
また研究成果を学会発表する準備を共にしている中で、大学院生がいろいろなアイデアを積極的に出してくださるのをみていると、今後のがん看護研究を進めていく若い研究者を頼もしく思ったりします。
多くの頼れる仲間と共に、今後も実践に根差した疑問を紐解き、解決するための研究をワクワクしながら続けていくことができるよう頑張っていきたいと思います!
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